
今回はカラーグレーディング界のパダワンが物欲というダークサイドに落ちそうになるが、BenQ PV270を手に入れライトサイド(正しい色)に導かれジェダイになるまでのお話である(違う)。一番映像編集が重なる10月11月にカラーマネージメントディスプレイ BenQ PV270を結構使い込んでみたのでその感想です。
「もうちょっと青に振って、あと全体的にもっと明るく」
そんな風にクライアントから注文を受けた事があなたはないだろうか?そんな注文にもカラーマネジメントディスプレイを使っていれば「こちらはキャリブレーションしているモニターで色を合わせていますが大丈夫ですか?」と返す事ができる。
導入に踏み切った理由
4年前からi1 display proを使ってモニターをソフトウェアキャリブレーションしていたが正直色が合っているのか自信は無かった。周りその道の方々がハードウェアキャリブレーションを出来るモニターを続々と導入していったが、数十万円するカラーマネージメントディスプレイにの導入に私は躊躇していた。そしてそのお金があったらレンズやドローンに注ぎ込んでしまっていた(ダークサイドの誘惑)。しかし実売10万円程度でハードウェアキャリブレーション出来るモニターが出ると聞いて手を出すことに決めた。それがBenQ PV270である。
カラーマネージメントディスプレイの導入に踏み切った理由はもう一つある。どちらかと言うとこちらの方が重要なのだが、以前からRAWで映像を撮影していたが、1年半前にシネマカメラ Blackmagic Design URSA Mini Proを導入しDaVinci Resolveで本格的にカラーグレーディングを勉強するようになり色の正しく無いモニターでいくら色を調整しても意味がないのを実感していたからである。他のモニターでみると「うーん、俺の作った色はこうじゃないんだけどなぁ……」と感じていた。

正しい色が表示されるモニターとは何なのか?
赤が赤く、青は青く。緑が緑に。白を真っ白に。輝度が正確に。と当たり前の事なのだが、その基準通りに表示されるモニターはなかなかないのである。僕の使っているiMacのRetina Displayだって箱から出した状態だと正しい色ではない。これが結構違う。キャリブレーターを使って調整すると「え?黄色くない?」と疑ってしまうほどオリジナルは青白い。ただまぁAppleなりの万人ウケするキレイな色なのだが基準の色とはズレているのである。そしてキャリブレーターを使ってもソフトウェア的に色を調整しているだけなので「大体合ってる」くらいの調整しかできないのである。カラーマネージメントディスプレイPV270ははハードウェアキャリブレーションで色を調整してくれるので「ほぼ完璧」に色を合わせてくれる。キャリブレートしたiMacとPV270を並べてみるとやっぱり色が違う。正直自分の目で正しい色なんてわからない(人間の脳は勝手にホワイトバランスを調整する)ので絶対音感的な色のセンスがない限りカラーマネージメントディスプレイとキャリブレーターを信用するしかないのである。

(スクリーンショットを撮っても変わるわけでは無いのであくまでイメージです。)
映像の場合はRec.709(100%)やDCI-P3(96%)を主に使う。今一般的に普及しているテレビ等はほとんどRec.709が基準だ。映画館で上映を前提とする場合はDCI-P3に合わせてカラーグレーディングする。またsRGB(100%)やAdobeRGB(99%)の色域をカバーしているのでWEB製作や写真現像、印刷物を取り扱う場合にも優秀だ。

色を正しく扱うための物差し
友人の映像作家 鈴木祐介さんがカラーマネージメントディスプレイの事を「色をいじるための正しい物差し」と表現しているが、「うん確かに」と納得してしまった。例えば10cmを測るとき、親指と人差し指を広げてこのくらいかなぁとやっている状態が通常のディスプレイ。しかも0地点がどこかわからない。そんな状態で色を作ることは不可能だ。定規で10cmと正確にわかるのがカラーマネージメントディスプレイだ。映像製作というのは家を建てる作業のようなものでそれを目分量で行うとどうなるかは想像に難くない。またAQCOLORという技術でプロ向けカラー標準に対応しているのでPV270は正しい色の尺度を指し示してくれる。
使用環境
メインPCはiMac Pro。PV270との接続はBlackmagic design DeckLink Mini Monitor 4Kを介して行なっている(Ultra Studioでも良い)。ここら辺は完全に鈴木さんからの受け売りである。
DaVinci Resolveの場合、DeckLinkやUlutra Studioを介すとGPUを経由せず10bit/12bitで色を出力できるのでより正しい色情報を出力する。PV270が10bitに対応しているのにGPUのせいで8bit表示になってしまうのは非常にもったいない。また27インチのディスプレイは視線の移動範囲も大きくなく程よいサイズ。DeckLinkを使って全画面出力をした方がグレーディングが捗る。グレーディング結果にも明らかに差が出るのでおすすめだ。

色関係で主に使うソフトはBlackmagic DaVinci Resolve StudioとAdobe Lightroom。キャリブレーションはi1 Display Pro(これは別売り)とi1 Display Proのソフトi1 PlofilerをPV270に最適化したPalette MasterというPV270に付属(無償ダウンロード)のソフトを使って行う。



またPV270は電源を入れてから5分で色が安定し(普通のモニターは30分程度かかる)、ムラ補正回路によりすみずみまで輝度ムラの無い表示をしてくれる(ユニフォーミティという)。Palette Masterにユニフォーミティの計測機能が付いていたので試してみた。

ディスプレイの25ヶ所の輝度を計測し中央との比較を%で表示してくれる。


で、実際どうなの?
スペック的なことはカタログに書いてある。それでは実際に使ってみてどうだったか?ということが一番重要であろう。
小さい画面でグレーディングをしても大きい画面で見直すとコレジャナイ感がある。フルスクリーンで映し出すグレーディングを一度体験してしまうと元には戻れない。またアンチグレアなディスプレイを久々に使ったが目が疲れにくい。グレアのディスプレイの方がパッと見キレイな映像だが長時間使うにはアンチグレアの方がいい。
遮光フードがとても良い。外部光の影響を減らすために付いているのだが、集中力が上がり画面に入り込める。DaVinci Resolve Mini Panelとの組み合わせでカラーグレーディングを行えばより一層色作りに集中できる。

仕事柄デジタルサイネージ用の縦長映像も作る機会があるが90°回転させ大きな画面で確認できるのはとても便利だ。流石に編集は少しキツイが。

難点はディスプレイを2台置くと大きな机が必要になる事である。今までの小さな机では少しはみ出し、圧迫感もあったので大きな机に編集環境を作り直した。DaVinci Resolve Mini Panelも余裕を持って乗り編集環境が良くなった。

シネマティックな質感を出すために24Pで編集する事も多いので24P出力に対応しているのが嬉しい。
そして何度も言っているが正しい色で色作りができるという事がもっとも重要。正しい色が出ているという前提で作業できるので色作りに自信がついた。
どの段階でカラーマネージメントディスプレイを導入するのが良いか?
自分のように色をゴリゴリ弄って映像を作っている人間なら編集用PCを組むのと同時に導入するべきものだ(と使っていて思った)。もっと早く導入すれば良かったというのが正直な感想。しかし安くなったと言ってもそれは従来の他のカラーマネージメントディスプレイと比べてだ。映像を生業としていない人にとって10万円はまだハードルが高いと思う(導入する価値はお値段以上あるのだが)。タイミングとしてはカラーグレーディングが楽しくなった段階での導入が良いのではないか? さらに楽しくなる。カメラやレンズにこだわるのもとても大切だがカラーグレーディングを覚えるとそれらを変えるよりも作品のクオリティが数段上がるのは間違いない。もちろんバランスの良い機材のアップグレードが大切だが、一度に機材更新をするのは大変だ。しかし正しい色でのカラーグレーディングを覚えれば安い機材で撮影した映像でさえ人の目を引く映像の世界観を作ることが出来る。
本気でやればやるほどお金が際限なく出て行ってしまう映像製作。高い品質なのに低価格なBenQ PV270は今まで必要性は分かっていても色にこだわって来なかった人の入門におすすめだ。
